息子の近くで性的暴行された女性 ウクライナ ブチャ

ブチャ Bucha

息子の近くで性的暴行された女性 ウクライナ ブチャ 2022年8月

灼熱の日差しが降り注ぐ、真夏のブチャ、わたしは、赤い派手なワンピースを着て、化粧をぴっちりした初老の女性、イリーナと出会った。彼女と出会ったとき、想像とは違う彼女の姿に、冷水を浴びせられたような気持ちになった。待ち合わせ場所にいたのは、赤い派手なワンピースを着た、化粧をぴっちりした初老の女性だった。占領下のブチャ、息子の近くで、ロシア兵に性的暴行をされた女性がインタビューに答えてくれる、ということを知人から聞いたとき、きっと被害者の女性は、今でもトラウマに苛まれていて、精神的に病んでしまっているのだろうと勝手に決めつけていた。おしゃれをする余裕などなく、とてもどんよりした雰囲気をした女性が来るのだろう。重いインタビューになるな、そう覚悟をして、気合を入れ、その日わたしは彼女との待ち合わせの公園に向かった。しかし、いつだって現実はわたしが想像する浅はかな現実とは違う。おめかしをした彼女は、公園の花の前でポーズを決め、このアングルで撮影してちょうだいね、とわたしに頼んできた。わたしは、想像とはまるで違うイリーナの様子に、少しのポカンとしていた。しかし、おめかしをして花の前でポーズを決める彼女の姿は、戦争で歪められ、廃墟の前で涙を流す、新聞によく掲載されているウクライナ人の姿ではなく、わたしがよく知る、人生を謳歌し、美しい写真を好む、ありふれたウクライナ女性の姿だった。じかし、占領下のブチャで彼女は悲劇と絶望、そして反吐が出るほどの人間の悪意を経験した。

2022年、3月、ロシア軍によるウクライナ侵攻が始まり、イリーナ(57)は息子と二人で家の地下に隠れていた。まわりの人たちはみんな避難して、近所に残っているのは二人だけだった。3月4日、朝食を食べていると、ドンッドンッ、誰かが家の扉をノックした。二人は身の危険を感じて、地下室に避難して居留守を使った。しかししばらくすると、ロシア兵は地下の入り口を開け、「誰かいるか?」と声をかけてきた。「母と自分だけだ」と息子はロシア兵に応えた。「男は下にいろ。女は上に来い」とロシア兵に命令されてイリーナは地下室を出た。

ロシア兵は30代の大柄な男だった。イリーナは戦前、もしものためにとフリブニャ(ウクライナの通貨)を千U Sドルに両替していた。しかし、その貴重なアメリカドルロシア兵に見つかってしまったの。「もういらないだろう。俺がもらう」とロシア兵に銃口を突きつけられ、千ドルを強奪された。その後、ロシア兵は重いものを地下の扉の前に置き、息子は地下に閉じ込めた。

ロシア兵に近所を案内するように命令され、隣の空き家に移動した。ロシア兵は緊張していたのか、イリーナの後ろから銃でイリーナを何度も押した。

「奥の部屋へ行け」。ロシア兵に言われて奥の部屋へ行くと、イリーナはロシア兵に押し倒された。イリーナはこんなことになるなど想像もしていなかった、なにしろイリーナは、ロシア兵と親子ほども年齢が離れているのだ、案内をさせたかっただけで、襲われるなど、考えるはずもない。

「私は脱がないわ」。イリーナは抵抗したが、ロシア兵はイリーナ胸のボタンを強引に取った。押し合いになるが、一般のウクライナの女性が、大柄なロシア兵に勝てるはずもない。「あんたはなにをしてるの?私はあんたの母親の年齢よ?お前は親を犯すのか?」。そう叫んだが、ロシア兵は無視をした。そして、ロシア兵は彼女の上にのった。泣いて叫ぶと殴られた。「お前はレイプした後に私を殺すのか?」。そう尋ねると、ロシア兵は「お前次第だ」と言った。

ロシア兵は行為を終えると、ふと我に返り、なにかに怯えるように走って逃げた。ロシア兵は逃げるとき、部屋に鍵をかけて、イリーナを部屋に閉じ込めた。「開けろ、開けろ!!」とイリーナはドアを叩き叫んだ。

すると、ロシア兵はドアを開け戻ってきた。指なしグローブを部屋に忘れたからだ。「なぜ服を着ている?なにもするなと言っただろう」。ロシア兵はイリーナが服を着ているのを見ると、激怒して、そう声をかけた。「もう犯したのに、これ以上なにを望むというの?」イリーナが話し終えるとロシア兵は銃を抜き、「早くでていけ、出て行かなければお前を撃つ」とそう言った。「どこへいけと?」イリーナの問いにロシア兵は「地下へ行け」と大きな声で命令してきたの、イリーナはすぐにその場を立ち去った。しかし、イリーナは息子に会いたくなかった。

「大丈夫だった?」。地下室に戻ると、息子は優しく声をかけてくれた。「大丈夫よ」。ロシア兵に犯されたなどと息子に言うことができるはずもない。「でも、あなたは地下に居てよかったわ。もし、上に行ったら殺されていたかもしれない……」それは、イリーナの心からの言葉だった。

「今でも悪夢見ることがあり、眠れないわ。なぜ顔を出して、インタビューを受けるのかって?ロシア軍がウクライナで行った非道。ブチャの真実を伝えるためよ」彼女は化粧をぴっちりした顔で、力強い瞳でわたしを見据えて、そう答えた。彼女が、化粧をぴっちりし、赤いワンピースを着て取材に答えるのは、辛くても、ウクライナの女性、ブチャの女性、戦争の被害者代表として、しっかりした出立で、世界に真実を伝えようようという決意の表れなのかもしれない。そう思った。