ナゴルノ=カラバフ難民取材 2023写真 アルメニア首都エレバン ナゴルノ・カラバフ 未承認国家アルツァフ共和国 2023年9月19日、アルツァフ共和国(ナゴルノ=カラバフの未承認国家)は、アゼルバイジャン軍に侵略され、わずか1日にして、アルメニア軍は降伏。アルツァフ共和国は滅びた。10万人以上のアルツァフの人々は、彼らのとっての国を、故郷を追われた。 同盟国ロシア軍に裏切られ、アルメニア軍に見捨てられ、アゼルバイジャン軍に全てを破壊された。
英雄ミカエルは戦死した。村や、故郷のアルツァフ(ナゴルノ=カラバフの未承認国家)仲間を守るため。ミカエルは目に障害があり、従軍する必要はなかったが、村や家族を守るため兵士に志願。負傷した同僚を助けようとして爆撃で命を落とした。ミカエルの妻は、故郷のアルツァフ共和国、愛する夫、家、以前の平穏な暮らし、全てを失った。
〜英雄の宝物〜 英雄ミカエルの4人の娘たち "お父さんが英雄なのは知ってる。わたしが英雄の娘だってことも。でも、仲間を助けようとせず、お父さんに、生きて帰ってきて欲しかった"とミカエルの9歳の娘は語っていた。ミカエルは子供たちを"わたしの宝物"と呼んでいた。ミカエルの娘四人は、無邪気で笑顔が素敵だった。
3歳の娘はわたしがカメラを向けると、いつも物陰に隠れて、しばらくすると満面の笑みで、物陰から出てきて、わたしがカメラを向けると隠れて、しばらくするとまたニコニコ笑ってでてくる。
愛する夫は1993年、第一次ナゴルノ=カラバフ紛争で戦死。45歳だった。 最愛の息子は2ヶ月前、村を守ろうとして戦死した。皮肉にも戦死した息子、ミカエルも45歳だった。
ある日のアルツァフの食卓〜 ステケナパルト出身の、ナゴルノ=カラバフ難民の人たちの昼食。食卓にはアルツァフのパンケーキや、ハーブがたくさん詰まった、アルツァフ料理、ゼンガロブハットが並ぶ
アゼルバイジャン軍に、アルツァフ外への唯一の道路ラチン回廊が封鎖された9ヶ月、アルツァフの人々は食糧不足や薬品不足に苦しんだ。多くの高齢者が亡くなり、妊婦は流産した。子どもたちは甘いものが食べられず泣いていた。彼女たちは、ラチン回廊封鎖中、近所の子供達に甘いお菓子を作ってあげた。
ラチン回廊封鎖で、数ヶ月甘いお菓子が食べられなかった少年。アルメニア本土から来た避難バスが、甘いワッフルを配ってくれ、数ヶ月ぶりに甘いものが食べられ大喜びした。
1歳半の少年の出身地、マルトゥーニ市では、負傷兵を救助しようと、バスで向かった市長と15人の民間人がアゼルの爆撃で亡くなった。少年の家は92年、2020年の紛争で爆撃に巻き込まれ、屋根や窓ガラス、家具など2度も破壊された。2回にわたって修理したが、アゼルの侵攻でアルツァフ共和国は消滅し、もう、帰ることはできない。
ハルツダン市 戦死した兵士の絵 2011年人口4万人だったハルツダン市に、現在、5千人のカラバフ難民がいる。以前は月3万ドラムも家賃で家を借りれたが、現在の家賃は月20万ドラムに跳ね上がっている。
アルメニア ハルツダン市の家に11人の親戚で集まってくらすカラバフ難民。アルツァフのチャルタル市の学校の副校長と教師だった夫妻は、この街で教職の仕事が見つけられずにいる。今は支援でなんとか生きているが、「仕事をしたい。支援に頼るこじきになりたくない。先生として仕事をして、お金を稼ぎたい」
2歳の少年マツナカとナゴルノ=カラバフ難民のお母さん
2歳の少年マツナカ。2020年、44日間戦争で戦死した叔父マツナカの栄光にちなんで名付けられた名前だ。
1週間ほど前から、エレバンの裁縫工場で働き始めた、ナゴルノ=カラバフ難民の人々
アルツァフ料理、ゼンガロブハットを作る、ナゴルノ=カラバフ難民の女性
アルツァフのサルシェン村で英語教師だった彼女は、エレバンで仕事が見つからないため、ゼンガロブハット屋を始めた。
アルツァフでは、軍で仕事をしていた彼女。お菓子を作って、人に喜んでもらうのが好きなため、現在パティシエを目指して勉強している。
女子大生のマリャムの兄は戦死した。ナゴルノ=カラバフ難民の彼女は愛する故郷と家も失った。しかし、それだけではない、彼女のフィアンセは、9月27日、カラバフからの避難の途中、65人が死亡し、105人が行方不明になった、燃料貯蔵施設の爆発で亡くなった。
2023年9月、アゼルバイジャン軍の停戦違反の攻撃により、弟が負傷し、障害を負ったナゴルノ=カラバフ難民の女性とその娘
「叔父はいつもジョークをいう明るい人。今だってお見舞いに行くと、ジョークを言って笑っている。とてもアクティブで働き者だった。なのに、今は歩くことができない。働くことができない。それが、とても辛いのよ」「アルツァフは一言では言い表せない、とても大切なもの。ただの地元より、もっと特別なもの。自然が美しいアルツァフでは、よく、いろいろな場所をハイキングした。だから、アルメニアもたくさん旅行がしたい。アルメニアという国を知るために」
聖書にも登場するアララト山が登場するアラクサバン村
アルツァフ チャリクタル村出身のカラバフ難民「アルツァフは私たちにとってただの国じゃない。世界の中心だった。私たちはアルツァフで生まれ、アルツァフで育った。でも、世界ではアルツァフは国だと認められていないから。全てを失ったのに、私たちは何者でもない!!存在しない人間なんだ!!」
アルツァフ バクハス村出身のカラバフ難民 「今も同じものを食べているけど、でも、全てが変わった。二つの家がアルツァフにはあったけど、ここには家はない。賃貸だけ」
ナゴルノ=カラバフ難民の相談を受ける、ナゴルノ=カラバフ難民支援の仕事をしている女性
ソーシャルワーカーの彼女は2020年44日間戦争で、最愛の夫を失った。 「前まで、夫と一緒に3人の子供を育ててきた、一緒に幸せな家庭を築いてきた。でも、今は一人。シングルマザーで、責任は増えて、稼ぎは減った。それに、もう夫はいない」
17人で一つの家に暮らすナゴルノ=カラバフ難民の親戚一同。英雄ミカエルの家族。
賑やかな英雄ミカエルの家族。故郷と最愛の家族を失っているが、家族仲が良く、お互い支え合っているため、厳しい環境でも笑いが絶えない、素敵な家族だ。
賑やかな英雄ミカエルの家族
英雄ミカエルの姉。彼女はナゴルノ=カラバフの村を脱出するとき、役所から銃と手榴弾を借りた。自殺するためだ。アゼル兵に捕まり、捕虜にされたら、何をされるかわからない。拷問や、拷問より酷いことをされるかもしれない、なら自死した方がマシだ。そのため、子供を守るためと、役所に言って銃と手榴弾を借りた。
アルメニア 南西部 2年前 ナゴルノ=カラバフ難民を取材したゴリスへ向かう
南西部、ゴリス近郊の村
村の子供たち
アルツァフ共和国、首都ステパナケルト出身のナゴルノ=カラバフ難民の子供たち
末っ子の6歳の男の子は毎晩「なんで、アルツァフに帰れないの?」と泣いている。上二人の子と違い、アゼルバイジャンに侵略され、戦争に負けて、故郷に戻れないことをまだ6歳で理解できていないからだ。おかしいのは理解できない彼なのか?世界の理不尽で故郷へ帰れないことなのか?
少女は絵を描くのとロシア語が大好きで、ロシア語をペラペラで話せる、小さい頃からロシア語のアニメを見てきたからだ。彼女のおばあちゃんはロシア人が大嫌いだ。ナゴルノ=カラバフの平和維持軍だったロシア軍は、アゼルバイジャンがアルツァフを侵略しても、民間施設を爆撃しても何もしなかったからだ。アルツァフの人が「助けてくれ」とロシア兵に頼んでも、ロシア兵は「何も出来ない」というだけだった。
「戦前のステパナケルトでの暮らしは、息子が軍で働いていたから、とても裕福だった。よく、エレバンとか、アルメニアの街に旅行に行った。完璧な生活だったわ。9ヶ月にも及ぶラチン回廊封鎖中、食料がなくて豚の餌を食べたわ。味をマシにするため、とうもろこしを豚のエサに混ぜた。それでも、吐きそうなほど不味かった」
双子を妊娠しているナゴルノ=カラバフ難民の女性。「ラチン回廊封鎖中、にんじんとか食料を見つけたらなんでも食べた。子供たちはいつも泣いていたわ。”なんで甘いものをくれないの?”と聞かれて、何も答えられず耐えられなかった。妊娠しているのに食べ物がなくて怖かった。生まれてくる子供も何も食べられないかもしれないと思うと、不安でたまらなかった」
最果ての村クハァナツァク 2年前、取材で訪れた時は、村人たちはアゼルバイジャン軍による家畜の強奪、威嚇射撃に苛まれていた。
クハァナツァクで暮らす、カラバフ難民の親子。2020年、44日間戦争後、アゼルバイジャンに故郷を占領され、この村へ避難後、家族の最愛のお父さんは脳卒中で亡くなった。3人の子供のうち、二人は病気で、気をうしなってしまうことがある。唯一の働き手の長男が、来年徴兵されてしまうため、来年以降の生活の目処が立っていない。末っ子の9歳の男の子は、学校の先生に欲しいものを聞かれると”銃”と答える子供だったが、お父さんが亡くなって以来、クリスマスにサンタさんに”お父さんに会いたい”と頼むようになった。
ハルタシェン村のナゴルノ=カラバフ難民の親子。少女には2年前にも取材であっている。元気そうでなんだか嬉しい。
インタビュー後にも、村の別の場所で偶然再開した親子。二人で楽しそうにブランコをしていた。
2年前のナゴルノ=カラバフ難民取材でもインタビューした親子。44日間戦争で最愛のお父さんを亡くしている。この2年で変わったことは、ベットが変わったことだけ。末っ子はいまだに戦争のトラウマで精神を病んでしまっている、とお母さんは語っていた。
ナゴルノ=カラバフ難民の少女
2年前もインタビューしたナゴルノ=カラバフ難民の少女。前よりも、すっきりした顔で笑っていた。将来の夢は二つ。一つ目は、アルツァフに帰ること。二つ目の夢は美容師になること。
2年前もインタビューしたナゴルノ=カラバフ難民の家族。2年前は賃貸で暮らしていたが、今は家を購入して、そこで暮らしていた。
2年前も写真を撮影した、ナゴルノ=カラバフ難民の少女。相変わらず、スマホを見てニコニコしていた。2年前は耳コピで私の英語を真似していた。将来の夢は美容師。
お姉ちゃんは村の学校で一番の優等生になっていた。「平和が欲しい。平和の中で学校で、平穏に勉強して大学に行きたい。卒業したらお医者さんになって、人を救いたいな」
お父さんは酪農業を営んでいる。自家製のチーズやハムを出してご馳走してくれた。とても美味しいチーズだった。彼らとの再会も相まって、より美味しく感じられた、至福な時間だった。
最高の笑顔
乗馬を披露してくれるお父さん
2年前と同じように、アルメニア料理を作ってくれた、ゴリスのおばちゃん
アルメニア マシス市
アルツァフ チャルタル市出身の女性 「学生の頃は、チャルタルの美しい文化センターで演劇クラブに所属していた。アヌシという、私たちが演じた劇は、大会で一位になった。クラスメイトもいて、クラブのメンバーでアルツァフのシャシュやエレバンに旅行にも行った。演劇クラブは私の思い出の場所で、青春だった。あの場所を残して避難しなければいけないのは、本当に辛かった。アルツァフは人生そのもので、天国。アルツァフを失うのは、人生の半分を失うのと同じよ。」
悪魔に愛された少女、ハスミック 少女の祖父は、アゼルバイジャン兵に”悪魔”と呼ばれ恐れられた、アルメニアの有名な兵士だった。アルメニア軍の人々からも、強く、規律が厳しい彼は、恐れられていた。彼は2歳のハスミックを”ジャプ”ロシア語でワンワンちゃんと呼び、溺愛していた。
5歳のハスミックは、亡くなった祖父が彼女を可愛がってくれたことを覚えている。「おじいちゃんは抱いてくれた」と、当時のことをよく口にしている。祖父の3周忌でお墓に行った際、「おじいちゃんは、家に来ないの?」と、ハスミックはお母さんに尋ねた。祖父が死んだと認識していないのだ。おじいちゃんは天にいると、お母さんはハスミックに伝えている。
アルメニアの新しい友達と遊ぶ、ナゴルノ=カラバフ難民の少女ハスミック
アゼルバイジャン人に死体にされた子供たち マルトゥーニ地域の村に住む子供たち。お母さんが、親戚のお見舞いでステパナケルトに行った際、アゼルバイジャン軍の侵攻が始まり、お母さんと連絡が取れなくなる。行方不明になった子供たちを探すため、お母さんはSNSに電話番号と子供たちの写真を投稿。すると、お前の子供だと、匿名のアゼルバイジャン人十数名から、関係ない人間の死体のグロテスクな写真が送られてきた。侵略を受けている、アルツァフの人に嫌がらせするため、アゼルバイジャン人により、母親に死体の画像を送りつけろと、ネットで子供たちの画像は拡散された。子供たちは無事生き延び、両親と再会。「今は新しい学校で、友達もできて楽しい。みんな暖かいよ」とあっけらかんと語っていた。
夫に、兄弟同然の従兄弟二人、母親を亡くしたナゴルノ=カラバフ難民の女性。最愛の家族を4人も亡くした。「夫はとても親切で、いつも友達や親戚を助けていた。みんな彼を尊敬していた。彼は若い頃に父親を亡くして、父親がいなかったから、子供たちにとっては、いい父になろうとしていたの」
7歳の少年は、優しいお父さんが亡くなったことが信じられず、「誕生日(12月8日)にお父さんが電話してくれると信じているんだ」と話していた。だから、お母さんは、お父さんは亡くなったお婆さんや、親戚と同じ場所に行ったと教えている。少年は、クリスマスツリーの姿を思い出すことができない。喪に服した年はクリスマスツリーを出すことができない。毎年親戚が死んでいるため、最後にクリスマスツリーを出して、お祝い事をした時が思い出せない。少年はアルツアァフで空手を習っていた。あと数日で、昇段の帯がもらえるという日に、アゼルバイジャン軍が攻めてきて、全てを失い、もう、空手の帯をもらうこともできない。
「今は何も見えない。今は何もしていない。アルツァフにいる頃、子供たちは毎朝8時から、スポーツとか色々アクティビティをして、勉強をして、夜の8時に家に帰った。でも、今は1日何もしていない。とても悲しい、人が死んだだけでなく、状況がとても悪いの。たくさんのものを無くした。子供たちの思い出は、10ヶ月の封鎖による飢えと、戦争と、親戚と父の戦死、こんなの子供の贈るべき生活じゃない」
「まだ働いていない。子供を精神科に連れて行かなければいけないし、小さな子供の世話もあり、働くことなんてできない。12月後半には、この親戚の家をでなければいけない。でも、いくあてなんてない。エレバンはたくさんのロシアからの移民とナゴルノ=カラバフ難民で家賃が高騰している。家賃を払うお金もない。人が死んだ、夫が死んだ、たくさんの人が死んだの。みんな、とても悲しいの。どう乗り越えたらいいのか、わからない。」彼女の悲痛な叫びは、誰も目を向けない、ナゴルノ=カラバフ難民の、戦争に全てを奪われた人の、悲痛な叫びだった。
それでも、彼女たちは生きていく 英雄ミカエルの妻
兄と婚約者を亡くした女子大生マリャム
それでも、歩き続ける 故郷や家族、家、全てを失っても、歩き続けなければいけない。
悪魔と呼ばれ、アゼルに恐れられた英雄である、祖父に愛された少女。
マシス市で新しくできた近所の友達と遊ぶ
英雄ミカエルの娘、9歳のノナ
9歳の誕生日にもらったウサギの耳は、大のお気に入りだ。
英雄ミカエルの3歳の娘、マネ
キャンディが大好きだ
戦争で大好きなお父さんを亡くしても、それでも少女は笑っていた
故郷を、生まれた国を失っても、ナゴルノ=カラバフ難民の少女は笑っていた。彼女たちのような人たちが、全てを失った。
未承認国家、アルツァフ共和国という故郷を失った人たち。 メディアは誰も彼らのことを報道しない、活動家も彼らの権利を叫ばない。日本人は誰も、彼らに関心を寄せない。
それでも、生きていく 歩き続ける
